香港人はどこの国の人に?


小松和夫


 1996年3月31日夜9時を過ぎても移民局タワーの前には多くの人が長い列をつくっていたことを今でもよく覚えております。おおよそ20万人位と記憶しております。この日は、CIパスポート保持者がBNOパスポートに変更出来る最後の日であった訳です。この事実を大陸(中国)の故トウ小平氏が聞いて、「私達をどうか信じてください。」と言ったと云う。

 香港の人口は、現在、620万人。この内、半分がCIパスポート保持者(CHINESE IDENTITY)、また、半分がBNO(英国国民(海外)パスポート)又はBDTC(英国属土公民パスポート)保持者と言ったところです。前者は、多くの場合、大陸からの新移民が中心で香港在住7年以上の人を言い、香港での教育を受けてない人が多いです。後者は、多くの場合、香港で生まれ、教育を受けた人を言います。共に香港政府が発行したパスポートですが、今では、後者が政治、経済、文化等の中心に座り、日本人と同じように世界30数ヶ国ビザ無し渡航が出来ました。前者は、英語教育を受けなかったせいもありますが、概して、社会の低層部分を受け持ってきた観があります。前者同様、中国、マカオは、「香港澳門同胞手帳」により問題なく出入り出来ますが、これ以外の国にはビザ無し渡航は出来ませんでした。(但し、新しい香港特区パスポートは、カナダ、英国、シンガポール、米国、日本、韓国等16ヶ国が入国ビザ免除を認める方向にある。)

 しかし、1997年7月1日、香港が中国に返還することにより、その状況に微妙な蔭を落としております。なぜならば、香港政府=中国政府になるからです。もちろん、「この先50年間は不変である」ことを中国政府は原則として掲げておりますが、1997年7月より適応される「香港特区基本法」24条によれば、前者も後者も中国公民とは言うものの、政府は、二重国籍禁止の原則から英国国籍を有する後者を認めてないし、香港での居住と海外渡航は認めるものの、中国及び香港内での英国領事館の保護権利を享受し得ないとしています。

 現在、BNO保持者を中心に本当に多くの香港人が、外国(カナダ、オーストラリア、シンガポール、アメリカ等)に移民権を持っております。(但し、53%以上の人は「回流公民」として香港に戻ってきている)

 ちなみに、初代香港特別行政区長官の董建華氏は、昨年9月ごろまで米国パスポートを持っていたと聞いております。もちろん、今は、中国政府による香港の新パスポートを保持していることでしょう。でも、彼の多くの部下(政府内で働いている人々)はBNO保持者と思われます。