香港返還 直前・直後リポート 第三回

小松 和夫
- 香港経済発展の展望 -

1)香港経済の概要
 皆様既にご存じの通り、香港は、6月30日の新香港会議展覧中心(湾仔)での香港返還記念式典のより150年に及ぶ英国統治から別れを告げ、7月1日の記念式典により、新たに「一国二制度」の基に大国である中国に組み込まれる訳です。この返還が、香港のとって「大限」(死して終わり)なのか「開端」(新たな始まり)なのか、これを見極めるには、この先少なくとも5年から10年は時の流れが必要と思います。

中国返還後の香港


 既に、香港の経済力は、GDPがUS&172.9B(1997予測値)、経済成長率5.5〜7.0%(1997予測)と言う状態で、経済成長率がこの2年ほど5%を切っていましたが、この時でも、1人辺りGDPは英国を既に抜いておりました。 金融センターとしての地位もニューヨークやロンドンと同じように確率し、また、物流センターとして 、コンテナー取扱量は世界第1位の地位を確率しております。経済の主体たる企業は、香港系、中国系、英国系等の企業集団がいくつか誕生し、株価市場も中国の影響もあり活況を呈しており(1997 年1Q対前年比1.6倍のマーケットサイズ)、中国進出の足掛りとして海外(日本、英国、中国、米国で77%を占める)からの投資も増えております。(1995年にて世界第4位の投資地) 加えて、台湾、日本、韓国、欧米等から大勢の人々が訪れ(年12〜14%増加)、観光収入もUS$10.8B(1996年)になっており、また、多くの人は、この香港を基点にして中国及び世界各国に旅立っている訳でもあります。この意味では、交通センターとも言えるでしょう。

2)経済民主主義
 このような地域が、1997年以降けっして「大限」であってはならないと心ある人間は誰も考える訳です。英国統治下にあって、なぜここまで成長を遂げたjかを考えた時、(1)政府の比較的「自由」な経済政策(低い税率や規制緩和、レッセフェール政策等) (2)「法の下」では、「誰もが平等/公平」で「民主的な経済活動」を営むことが出来た、この二つが一番大きかったのではないでしょうか。従って、世界の多くの人々が香港に集まり、ビジネスチャンスを求めて切磋琢磨してきた訳です。
 このような良いところは、どうか「一国二制度」を言うのであれば、TV、新聞、座雑誌、映画、文学、演劇、、音楽、コンピューターソフト、教育、宗教等の業界に対し、今までと同様に自由な活動の場が与えられなければならいと考えます(香港基本法26〜38条の遵守)

 しかし、既に、香港特区政府(親中国派)は香港基本法(香港憲法)の中の人権法の一部破棄又は修正(集会、結社、考案例の改廃)を打ち出している訳ですが、新立法会(香港議会:親中国派が多数を占める)もこれを認める方向にあるのかどうか、今後注目されるところです。また、言論及び表現の自由に関しては、目にみえないプレッシャーにより、一部には、既に自己規制が始まっているようです。
 また経済活動には、一定のルール(法律)がある訳ですが、これを取り締まる政府機関がICAC(廉政公署)でした。中国にはありませんが香港には以前から存在しておりました。増収賄、インサイダー取引等を摘発し告発するセクションです。もちろん、司法が公明正大でなければ意味がありませんが、それより以前に、ICACは、中国の機構内部にはなかなか手が出せないのが実態と思われます。
重要な香港行政局「廉政公署」
既に香港財界は、新政府を支持しており、中国の国、省、市政府及び中国企業との間で多くの開発プロジェクトが進められていることと思いますが、不正等がどこまでチェック出来るかは何とも言えません。

3)香港の経済的価値尺度
 香港人が、何等かの資産を持とうとした時、現金預金/保険、金、不動産、株が考えられます。この内、何が最も安全(元金保証)で、将来(老後)とも有効で、高リターン(投資する見返り)で、インフレに対して強いものかを選択した時、それが不動産であった訳です。この価値尺度は、個人の持ち家レベルから、企業の活動基準においても、政府の収支均衝財政に至るまで大きい要素を成している訳です。

 香港には日本と異なり厚生年金や健康保険と言う政府所管の社会保険がありません。そこで、個人は老後に備えてせめて住む家は確保したいと考え、頭金を貯めて、残金は政府の政策のもとに銀行から借り入れをし、不動産(FLAT )を購入しました。自分や家族が働けるうちは、公営住宅や安いアパートに住み、取得したFALTは外国人に高く貸し与える訳です。こうしてローンの返済は心配なく、それ故、銀行も融資する、と言う仕組みです。企業もまた銀行から、短期、長期借り入れ金を得る為には担保がなければなりません。そもそもは脆弱な体質の会社が多いですから、銀行としても不動産と言う担保が一番好ましい訳です。 政府もまた自らの収支決済に当たり保有している土地を利用権として売却し収支均衝 をとってきた訳です。

 かくして香港満人にとって、不動産(土地利用権/家屋)は大変重要な価値尺度であり、お金を産む「商品」へと変わってきました。すなわち、「必要なもの」から「投機目的の商品」となった訳です。この考え方は、これを支える銀行、ディベロッパー、建設、不動産屋から、個人、企業、政府まで浸透していると言っても過言ではないでしょう。

 もちろん、この金満主義には、大変恐いものがあります。それはバブルの崩壊に他にありません。今は、大陸(中国)からの投資があるので不動産価格があまりに高く保っている状態です。もちろん資産価値を維持しながら騰貴及び投機抑制していくかが大変重要な梶取りになってきている訳です。
 ちなみに、1997年6月27日に香港の土地は英国から返還された訳ですが、香港特区新政府は、香港と九龍サイドは土地利用権の所有者が変わっても有効、新界は公有地化を進める政策を取っております。
 現在、政府は、「今は不動産を出来るだけ買わないように」指導しており、一方で、公営住宅の払い下げや新公営住宅の建設により力を入れようとしております。 また、不動産価格の暴落するような事態における銀行のリスク(不動産関連融資は全体の40%に及ぶ)を回避する為に銀行のモーケージを証券化し、それを買い取る公社の設立を準備している、いずれにしても、今後は、もっと幅広い経済価値尺度をつくり、投資の分散化を考えていかねばならない時期にきております。

価格上昇の激しい
「黄浦花園」


4)香港の産業未来
 4月8日のことと記憶しますが、米国MITは、香港の産業未来について研究報告「MADE BY HONG KONG」を発表しました。1年間をかけて香港の産業構造を分析し、今後の指針をまとめたものですが、これによると、「同族経営による硬直化、新技術の立ち遅れ、高コストと言う深刻な問題を放置するなら、香港は将来、必ず競争力を失う」と警告し、GDPに占める研究開発予算が、日本2.9%、米国2.4%に比べて0.1%と極端に少ないことを指摘した上で、香港政府がハイテク、新技術産業の育成に積極的役割を果たす必要性を提唱している。具体的には、以下をあげている。
  1. 新技術、新製品の開発能力の向上
  2. 労働力の質向上
  3. 知的所有権の擁護
  4. ハイテク企業育成の為の米ナスタック型店頭市場の形成
  5. 香港政府と産学との人員交流
  6. 欧米中国からの専門かの招へい
 以上は、内容は否定出来ませんが、ハイテク企業とは、どの分野を言っているのか分かりません。
以前、香港政府も新界に台湾の新竹のようなハイテク工業団地の建設と云うようなことを言っておりました。もしそうであれば、以上の内容は、台湾、シンガポール、マレーシア当たりが目指しているのと何等変わりないし、加えて、米国、日本、韓国当たりと競合するような分野香港が進出しても勝算があるとも思えません。また、ハイテク分野であれば、北京郊外や上海には、産学官共同よる、また、外資系による半導体、コンピューター、ソフトウエア企業が出来上がってきております。

 私は、返還後の香港の産業を考えるならば、ハードな産業ではなく、むしろソフトな産業分野で、しかも、知的、文化的、コンサルタント的産業と思います。ます、香港にりっぱな総合大学又は専門大学及び大学院をたくさん創ることです。そこに香港人のみならず特に中国の優秀な人材を留学させる訳です。香港特区の予算で、ある条件の基に留学させることを考えてもよいと思います。
大学充実度アジア・オセアニア地域第5位「香港中央大学」
すなわち、現代西欧文化と技術を学には香港が中国における殿堂と位置付ける訳です。(マスコミ論、芸術、コンピューター&ネットワーキング、映画、映像技術、産業デザイン、エンターテイメント、医学、医療技術、バイオテクノロジー、生産管理、経営学、農林水産業、土木建築、環境工学、電気通信、その他)  ここの卒業生には、香港及び中国各自治体政府が活躍の場を与え、そして、新しい産業の担い手として企業を興す際には、香港政府の指導のもと香港金融業界がキャピタリストとして投資育成する。
大学充実度アジア・オセアニア地域第3位「香港大学」
すなわち、全中国的市場を相手に全産業分野に渡る知的、文化的、技術的なKNOW-HOWやコンテンツを創造し産業化または企業化させる。

 現在香港に、同族、零細、低技術企業が多いとすれば、これらの企業の自助努力を待つよりは、むしろ外から刺激を与えてやり、政府所管の”産業経営指導員”として支援する方が好ましいと思われます。
 もちろん、こうした施策は、個人や企業に対し、強要がああてはならないと思いますが、私は先のMITの報告を以上のように理解したいと考えます。