人治の国




孔健


 香港が返還され(中国では復帰)、中国となった。
 日本のマスコミは相変わらず、香港の自由が守られるか、民主化が守られるか、という視点でしか香港を見ない。
 香港にとって今後の一番の問題は。”自由”ではなく”腐敗”なのだ。

 中国は人治の国といわれている。法よりもそれを運用する人物に重きがおかれる習慣がある。かつて、秦の始皇帝が初めて中国に統一国家を出現させた。その偉業は徹底した法治政策によるものだった。戦国時代、韓の公子韓非が集大成した「韓非子」の著者に会えれば死んでもいいとまで言ったという。秦は戦国時代にかなり早くから、法による政治を行ってきた。その最も熱狂的な支持者が始皇帝だった。

 結局、秦は法によって中国で最初の統一国家を作ったが、その法の厳格すぎる運用によって、統一国家としては一代で滅んだ。
 秦の後、統一国家を作り漢民族による今日の基礎をなした、漢の高祖劉邦は漢中に入った時、「今後、法は三つだけによる」と宣言し、民の支持を得た。

 どうもこのあたりに、法よりも人治という体質が中国で形成されたようだ。
 しかし、人治は上手くいっている時は非常にいいが、悪くなると底なしになってしまう。
 その悪い傾向が、今の中国にはある。党幹部の利権に対する腐敗が、市場経済導入により深刻化し、大きな社会問題となっている。

 今の日本の閣僚と同じで、認可権を盾に取り利権をむさぼる。最近の日本の官僚もひどいが、中国もひどい。残念ながら今の中国の方が、その広がりという面では日本の官僚たちよりも、大きいかもしれない。
 それだけに中国政府は腐敗撲滅にやっきになっている。
 その体質が、もし香港にも浸透するとなれば、”自由”などの問題よりもはるかに経済活動に支障をきたすことになるだろう。
 中国政府が、この腐敗源から香港をどれだれ守れるかに香港の将来がかかっているといっていい。