逃げきれなかった福田和子
伊藤聡子


 逃走15年、松山ホステス殺害事件の容疑者福田和子(49)が、ついに逮捕された。
8月19日の時効成立まで、あと21日というところであった。
 この福田容疑者に関しては、昨年、日本初の懸賞金100万円がかけられて以来、スーパーモーニングでも何度か取りあげたが、その逃走劇は行く先々でドラマがあり、容疑者であるということを念頭に置きつつ、なお、興味をいそそられる人物だった。
顔を整形しながら、いろんな人物に堂々となりすまし、勘が鋭いのか悪運が強いのか、警察が踏み込み30分前に自転車で逃走するという荒技をやってのけたりしている。
残された部屋からは大量の推理小説が発見され、中には「逃げるが勝ち」「目撃者ご一報下さい」なんていう笑ってしまうほど本人の状況と一致するタイトルがあったり、所々で知人に電話をし、人なつこそうな声で「逆探知されたら困る、危ない危ない・・・」などと話す大胆ぶりだったのだ。
 今どこで何をしているのか・・・どんな人なのか・・・想像をふくらませながら、 この人はきっとつかまらずに時効を迎え、時効直後に「私が福田和子よ!」とワイドショーにピースしながら登場するんじゃないかとまで予測していた。
 ところがである、あっけなくおでん屋の女将と客に見破られゴール目前で逮捕されてしまった。

 15年近く完璧なまでに逃亡を続けてきたのに、あと21日というところでどうしてこんなヘマをしてしまったのか?じっとしてればいいのに。
同じおでん屋に20回以上も通い、なおかつ「私、福田和子に似てるって言われるのよ。」と大胆すぎる発言までしている。
人間っていうのは本当に危うい、彼女は14年11ヶ月以上にわたって逃げ通せたという自信が相当あったはずだ、きっとこのまま逃げ切れると確信していたに違いない。 そんな中でもう間もなく15年のドラマが完結するという時にとったこの信じられない行動。油断なのか、「もうすぐ!!」というある種のハイテンションが引き起こしたものなのか、それとも、殺された安岡さんの怨念がなせる技なのか・・・。
逮捕されたときの彼女は茶髪のショートカットに、夏に整形をほどこした若返った顔、真っ赤なマニュキュアにオレンジのカーディガン、白いタイトスカートに、黒のアンクルベルト付ピンヒールの靴という逃亡犯のイメージをくつがえす派手ないでたちだった。
 しかし、その姿をすっぽりとジャンバーで覆われカメラにもみくちゃにされながら 号泣する姿は、より一層悲哀を感じさせるものがあった。
彼女は今、何を想い、この15年をどう整理しているのだろう。