小松和夫
以上、新聞の紹介でした。 本当に、欧米では「会社に対する帰属意識や会社のより一層の発展に対して誇りに 思う」は、かなり疑問ですが、ともかくも、論点を中国に絞って考察してみたいと考えます。 まずは中国。本来この国では、労働生産性はともかくとして、日本と同様に かなり強い終身雇用の習慣がありました。それを証言する中国人は多かったはずです。しかし、この資料を見る限り帰属意識は低いようです。もちろん、帰属意識の 高低が退職するか否かに即結び付くと言う訳ではないにしろ大変低い値(表の上 では高い数字)を示しています。中国では、住宅は政府が支給し、その家賃も 今までは一般人民の場合、10人民元程度で大変安いし、また、国営企業の場合は 従業員寮の完備についてもかなり高かった。よって、この点に関しては、帰属意識が 低いこととの関係は薄いと思われます。問題は、1990年代より本格化した「改革 開放」による影響で、階層によらず多くの国民が「向銭看(金に向かって走れ)」の 意識に傾いたことでしょう。 特に外資系の会社に働く人々はその意識は際立って高いものと思われます。加えて、外資系の会社では中間管理職が不足している。ヘッド・ハンターが横行し、給与次第で渡り鳥のように移って行く人々が多い現象は、経済特区でよく見受けられます。 一方、「老百姓」である国営企業の労働者は、賃金カットや未払い、一時帰休、 解雇により、自分の意志とは別に生活が窮する状況に追い込まれつつある訳ですから、帰属意識が高い訳がありません。この両者の能力や学歴による開きの大きさが そのまま所得の大きさとして現われてきており、前者は「台頭する中間層」として、 後者は「老百姓」そのままとして、二極化傾向が生まれてきていると考えられます。 だから、どこの家庭でも、親も子(一人子)も、「重点中学」、「重点高校」、 「10大大学」、「海外留学」、「よい会社」、「政府官僚」を目指せということに なるようです。 しかし、こうした社会現象と企業に対する帰属意識とは全く関係がないように感じられます。ここが、日本あたりと随分違うところです。すなわち、たとえ「老百姓」 の家であろうとも、日本の有名ブランドのテレビやステレオがあるからです。理由は簡単です。彼等は「副業」を持っているからです。すなわち、1社のみに身を置く 訳ではないと言うことです。従って、自分が働いている会社の製品を伝票等をごまかして横流しする行為も、そういう人には「副業」として感じ取られているのかも知れません。従って、中国に進出しているある流通総経理の方は、高校を卒業して採用した人間を「当社の従業員というよりは単なるアルバイトと考えた方がよい」と言って おりました。 |