従業員の会社に対する忠誠度(国別アジア比較)
               〜その2・香港編〜
小松和夫

 次は香港。香港人の労働上の道徳観は、アジアでは日本に継ぎ、シンガポールと同等に高いものと言っても過言ではないでしょう。F5(フォン・ファイブ:高校卒業統一試験)を取った人であれば、英語はそこそこ問題なく話しますし、北京語も上手でないと言われていますがテレビを見ながら覚える人も多いです。香港の90%からが金融、貿易、サービス産業(第3次産業)と言われる中で、基本的なスキルは高い地域だと考えられます。問題は仕事への気遣いが足りてない事とお金に対する欲求が高いことによる、両者のアンバランスにあると思います。

 一つのエピソードとして例を上げれば、ある工場の守衛さんがいるとして、彼の仕事は工場に出入りする人や車のチェックにあった訳ですが、いつも守衛門あたりが汚いので「ほうきで掃いて下さい」と上司が命令したとします。するとその守衛さんは、何時でもほうきで掃いていてチェックする仕事を忘れてしまっている。これが中国人とすると、「出入りの業者チェックの仕事のみならす、ほうきで掃除する仕事が加わったのだから、倍の給料にしろ」と言うのが香港人です。
 レベルの低い例え話しで恐縮ですが、しかし、大事な点です。私の知人(日本人)で日本の大手半導体メーカーを定年退職され、その後、生まれ故郷の台湾台中県にあるハイブリッドICメーカーの役員として再就職された方がおりますが、彼がその新天地で最初に実行したことは、従業員に徹底して個々の現場の整理整頓、清掃を義務付けたことでした。その結果、その会社の製品品質は飛躍的に向上アップしたそうでう。もちろん、今では日本の企業と比較しても上回る程の会社になっおります。

 企業が従業員の努力によりこうした状況になって始めて、飛躍的な給与やボーナスのアップに繋がることが出来ると言う理屈を理解して欲しいものです。
 香港ではこの掃除に関しても掃除専門のおばさん達が入っている訳ですが、モップを使う人、ゴミを捨てる人、机に上を拭く人、それぞれが分担化しているようです。これでは、掃除清掃だけでも3人雇うことになってしまいます。従業員に2倍の給与を支払うより経費は安いでしょうが、問題は、掃除を進んでする、その「心」、「気遣い」にある。もちろん、サービスはただと言う訳ではありませんが、いくらコンピューター処理が上手で、語学が流暢でスタイルや服のセンスがよくても、その「心」、「気遣い」が出来なければ、美しく魅力ある人間にもなれないとい言う理屈も合わせて理解して欲しいものです。

 香港での知人の一人(まだ20歳代男性)は、より高い給与を求めどんどん会社を移って行きます。もちろん、上記の2点を理解しているとは思えません。また、ある日系銀行の方が言っておりましたが、「毎年10%づつベースアップしていたら大変なコスト高、だから、入社3年目ぐらいで選別を掛けて、より若い新入社員にリプレースさせるような政策を取っている」と言っておりました。
 香港はもはや決して給与が安い地域とは言えません。言及した新聞記事には。「子供の教育や社宅に政策の重点をーーー」と言っておりますが、ここで「子供の教育」とは、どうも子供の送り迎えのことを言っているようです。具体的には、夫婦共稼ぎで、フィリピンのメードさんをおけない、子供が市私立小学校(スクールバスがある)でなく公立小学校(スクールバスなし)に行っている家庭を言っているようです。 すなわち、仕事がある為、親による子供の送迎が不可能な場合を言うようです。また、「社宅」については、キャセイ・パシフィック航空のスチュワーデスがそうであるような、マンションの借り上げ社宅を言っているようです。
 前者については、香港の企業として安易にフレックス・タイム制を導入不可能と言うのであれば。日本の会社がそうであったように「子供達による集団登下校」の概念を入れたらよいと思います。(軍隊以外に(強制がない限り)地域社会の集団行動が出来ないでは問題解決しません。)
 後者については、不動産物件の高い香港にあっていくら企業に頼ってもそれは無理です。香港政府は今、公営住宅の払い下げと共に新公営住宅を増やすことをその政策の柱にしております。従来、家賃は安い所で数百HK$〜高い所で数千HK$でした。新住宅はわかりませんが、このプライスは十分人道的民主的プライスと特に我々外国人には思われます。この問題は少なからず解決の方向に向かいつつあると踏んでおります。

 最後に、香港の為に今一つ指標を提出するならば、表2「97年版 世界競争力報告」(世界経済フォーラム)です。(5月21日の東方日報より) これは、対がい開放度、政府の役割、技術、企業経営等8分野の評価を総合的に比較し、ランキング(排名)したものです。香港は、昨年同様シンガポールに続き第2位にランクされてます。この高ランクの要因は、次ぎの3つであると新聞ではうたっております。
  • 開放的な金融市場
  • クリーンな公務員資質
  • 優良にして高教育の労働者

 しかし、シンガポールでも香港でも、中国(36位から29位へ)、インドネシア(30位から15位へ)、英国(15位から7位へ)のような成長スピードはなく、緩慢になってきております。加えて、香港の場合、中国へ返還が今後各評価項目ごとにどのような影響を及ぼして行くか、悪い方向を暗示する人が多いようですが、はっきりしない点が多いようです。香港政府、産業界、労働界とも考えなければならない事として、個々人や団体が私利私欲に走るあまり、経済全体のバランスや調整による「政策的介入」が進めば、また、どのようなメリットがあって世界の諸企業が香港に集約し金融、貿易、情報、交通のセンター(要所)となったのかを忘れては、成長速度をより緩慢にすることにもなりかねません。さすれば、財政改革、規制緩和の進む欧米先進国に今の地位を奪われることも有り得ないことではないと思います。本当に「クリーンで、優良で、高教育の人々がーーー」というのであれば、この高い視点から政治、経済、産業のモラルを考え、個々の行為を律しないと不足の事態も十分考えられます。