中国が危ない--中国情勢研究会編「中国破局」(実業の日本社)より
小松和夫


 今回は、1997年5月に発行されました上記タイトルの書籍を是非皆様に御紹介したいと思います。理由は、最近の中国の状況を端的に言い表していること、また、中国内(香港、広州、北京、上海、南京)にあって、第一線で御活躍している日本の商社マン、銀行マン、証券マン、メーカーの方々の生々しい衝撃の現地リポートだからです。中国経済に御関心のある方にはお勧めの一冊と考えます。以下に、私が読んだ感想文を最新のデーターや状況も一部折混ぜながら記述したいと思います。
必読の書「中国破局」


1)経済成長率10%のマジック
 中国政府は1997年も10%の経済成長が可能としているが、実際は、その市場性を無視した生産量に起因しており、車、エアコン、カラーテレビ、マンション、オフィスビル等売れない在庫の山を築くことで、この数字を達成しようとしている。

上海発展の象徴「南大橋」


2)中国の外貨準備高1050億US$で世界第2位のマジック
 中国の貿易相手国は、日本、アメリカ、(香港)、台湾、シンガポールが中心であるが、1994年以降ようやく貿易黒字になった。また、下記10項に述べる為替介入に伴う外貨がある。これらの外貨で米国国際を買ったとして500億US$。
 また、1996年までにおける外国からの実投資額1770億US$(1996年は401億US$)この外国企業が資本金という形で中国にもたらした内、外貨として保有しいる分、これも中国では外貨準備高に加えている。すなわち、他人様のお金も中国のものとして勘定している訳です。よって、外国企業が中国内にあるUS$を本国に引き上げれば、中国の外貨準備高は減る訳です。

賑わっているように見える浦東オフィス街


3)国営企業の60%が赤字、在庫の増大、倒産の続出
 車、エアコン、カラーTV、小型計算機、ワイシャツ---等々、無計画な生産命令により、既に5000億人民元のデッド・ストックになっており、中国国家予算の2/3に達し、以後ますます増える状況にある。また、既に生産ラインの40%以上がストップし(物を製造しても売れない為)、国営企業の60%が赤字転落。中央政府は、「もはや採算のメドの立たない企業は倒産やむなし」の判断を下だしている。国営企業は、本業がダメならば、不動産(1992〜1995年)、株(1995〜1997年)で利益を出そうと必死にあがいたようですが、むしろ、傷口を大きくしたようです。賃金未払い、レイオフ、そして、倒産の過程をたどるところが増えている。理由は、国営企業自身の問題もありますが、やはり、外国製品に押されている勢いも見逃せません。
 5月31日、中国国家統計局の方の意見では、1996年の倒産件数は6232社。1997年は大企業の倒産も見られる為、昨年よりも増える見込み。今後5年以内には、国有企業全体(8万8千社余り)以上となろう。しかし、仮に利益を出している企業があっても、その利益の90%を既に退職した者への年金として支払われている状況(中国全体で600億人民元)を考えると、首の回らなくなる企業は、今後60%を遥かに越えてくるであろう。

4)不動産のバブル状態
 広州、上海を始めとして中国主要都市に改革開放、経済発展の象徴としてオフィスビルとマンションが乱立乱造された。無計画とどん欲さがたたり、ほとんど空き家状態で資金回収のめどが立たない物件が多い。広東省では、1200平方メートル、1000億人民元、上海では、1000平方メートル、約834億人民元、等々のありさまである。頼みの綱は外国人のみ。ちなみに、1996年のGDPは6780億人民元、この2地域だけでもGDPの30%近くになってしまう。資本主義国家であれば既に崩壊するころと思われます。

外資系企業進出の中心「金橋輸出加工区」


5)失業者と貧困層の増大、治安の悪化
 「国営企業を中心に首きりや倒産解雇により既に就業人口に対する失業者は30%までになったようです」。(民間調査機関による) 家は政府から支給され、失業手当も100〜400人民元/月(人、場所による)支給されると言っても、これは食べる物を買うのも大変苦しいのが実態です。不法就労しても家族を養うのに十分ではありません。そこで、わずかな貯えをはたいて株に投資する。

外資系ハイテク企業進出の中心「張江高科技園区」
上海深センでは、この手の失業者、農民も大勢証券会社窓口に押し寄せ、そのフィーバーぶりは記憶に新しいところです。しかし、97年5月の政府通達や規制により、また、印紙税のアップにより株価がかなり下がってきており、フィーバーぶりも鎮静化してきました。一方職場を失った失業者レイオフ者、潮工民はデモを始め、窃盗、ごうとうの横行へと、治安が乱れてきております。
 5月31日、中国国家統計局の見解では、1997年3月末時点での失業者は900万人と言う。これは、完全失業者を言っていると思われますが、かなり控えめな数字と思います。これにレイオフ者(一時帰休者)4千万人以上(予測)、潮工民(農村からの出稼ぎ労働者)2億人以上(予測)、耕す農地を失った農民2億〜4億人(予測)。 これら全部を合わせると、中国全人口(12億人)の50%以上となります。すなわち、働いてお金を得ることの出来ない=食べるものにも事欠く人々がこれだけ国内にいると考えてまず間違いないと思われます。

6)上海、深セン株式市場、相場師で賑わう?
 96年秋ごろより97年5月まで、両証券株式市場は大変な賑わいでした。政府の金融緩和対策が期待出来るなどと言った口先だけのリーグで、失業者、レイオフ者、農民、本業の窮した企業などすべての人々が株を求めて走り回る観さえ見受けられたほどです。特に、よこしまな中国人は、B株(外国人がUS$で購入出来る外国系企業の株)を香港の知人の名を借りて買おうとする程でした。
 しかし、政府の思惑は、低迷する株式市場にカンフル剤を投入し株価をつり上げるとこまではよかったのですが、そのカンフル剤があまりにきき過ぎたのです。そもそも金に困っていて金銭欲の強い人々ですから、本業を忘れてはまた捨てて、ホットマネーとして株式市場に流れ出した為、一般経済社会での資本循環に悪影響を及ぼし始めたのです。この為、政府は窓口である大手証券会5社に対し自社株売買の一時停止(不当な株価操作の為)、不法な場合の刑事責任追認、銀行からの融資金による企業の株式購入を禁止、印紙税のアップ(0.3%から0.5%)、国民に自粛を求める運動を展開した訳です、
 もともと、その企業の株が上がると言うことは、すばらしい新技術、方法、販売力等が生じてのこと、リップトーキングでは、結局、元の低迷価格に納まるしかありません。

7)銀行不良債権の多発
 中央銀行である中国人民銀行は、「1995年夏の段階で中国4大銀行(中国銀行、工商銀行、建設銀行、農業銀行)の不良債権額は貸付額残高の約20%」を表明し、交通銀行、中信実業銀行を加えて5000億人民元以上に膨らみ、今日の不動産バブルの分も加えると一兆人民元に到達していると思われる。理由は、国営企業の負債の増大と 不動産投資の失敗が大きく全体の50%以上と言えるでしょう。既に、中国の銀行は国営企業にはリスクが大きい為融資出来ず、国内の株も不動産もだめとなると、行き場の失ったレッド・マネーは、利益を求めて香港(不動産投資と株購入)に流れてきているのが昨今の実態です。
そこで、政府は97年6月6日よ、次のような通達を銀行とその子会社に出しました。
  1. 株式売買禁止
  2. 既に証券取引所に開設した口座(個人名義も含む)を10日以内に閉鎖
  3. 現在保有する株を10以内に現金化
    また、目に余る銀行は名前を上げてその処分を発表しました。(6月13日:中国工商銀行、深セン発展銀行等)
  4. 「三角債」の増大
「三角債」とは、企業間取り引きにおける売掛、買掛債務で、代金の付け回しで連鎖的に発生した不良債権です。要は、不良手形のタライ回しのようなものと思われます。従って、もし国営企業1社が倒産すればドミノ倒しのように他社も倒産状況に陥っていると言われております。この「三角債」は推定で12兆人民元と言われている。

9)中国の外債発行残高1162億
 1996年12月、中国自民銀行の発表。既に中国の外国からの借金が1162億8千万US$に達している。大変な大きさの借金ですが、これに加えて、報告されてない「隠れ外債」(これまでのプロジェクト・ローン、海外基金、海外資金によるリース、譲渡可能債権等の地方政府が中央政府に報告してない外国からの債務)も加えると膨大な数字になることが確かです。従って、外国の銀行、リース会社等々にも相当深刻な影響が今後出てくるでしょう。ちなみに、中央政府は報告の無いものには責任がもてない旨を伝えているようです。加えて、6月3日の新聞の報じるところでは、中国政府は、ユーロマルク債の発行に踏み切るということです。額は3〜5億マルク(1.8億US$〜3.0億US$)日本。香港、米国、欧州と借り入れ可能なところならどこでもと言う感じですが、本当に返済出来るのでしょうか?

10)1US$=8.29人民元?
 5月末の時点で上記のような為替レートになっている。最近少々人民元高に動いている。李鵬首相は、「人民元の方が実力があるように思う」と言ったそうだが、もともと中国に進出している外資系企業は旺盛な人民元需要を持っている。これをそのまま放置しておくと、人民元のレートは上がる一方となり、中国の輸出に深刻な打撃を与えることになる。そこで、人民銀行がUS$を買い支えるというのが理屈です。従って、むしろ、「買い支えるのが難しくなりつつある」と見る方が妥当ではないでしょうか。いずれにしても、この問題は今少し為替レートの動きを見る方が妥当ではないでしょうか。いずれにしても、この問題は今少し為替レートの動きを見る必要性があると思います。

11)「斬」される外国人、外国企業
 本書は、これに関し次(<>)のようにまとめている。

<「市場経済は金儲け。たかれる間だけたかれ」が横行し、その分、最終商品は暴騰し、国内消費者の買えない製品ばかりが作られる。不動産、乗用車---、そして、国内経済が崩壊されていく。
 「市場経済には信用、契約という安全のルール が必要だ。このルールを無視して金だけおい求める民族に将来はない」といってもいまの中国人に通用するだろうか?

 中国政府のマイクロ・コントロールによる金融引き締めと税制改革による税率引き上げにより、外国からの投資が減少し始めてきている>

 前回のVol1.8で「斬」の状況を述べましたが、要は、他人から奪取することで自らの活路と飛躍を求める中国の現状態(ただ同然の土地と人を提供し、金、技術、ソフト、ノウハウ、設備、等々は外国から、しかも、政府のマイクロ・コントロールから投資を産まない。そこには、あさましい人々と荒廃した国の姿しか残らない気がします。

 最後に、中国情勢研究会は、次(<>)のような事を結びとして読者に提言しております。
<---いかなる甘言、脅迫に直面しようと「ババ貫のババを引くな」である。すなわち、バスに「乗る」ことよりいかに上手に「降りる」かが問題なのだ。当研究会の提言は「バスに乗り遅れるな」である。

 今までにも相当多くの中国関係の書物が出版されてきましたことは、私にしてもよく知るところでありますが、しかし、文学の世界は除いて、中国をよく書いた本は少なかった。この本もその点では一致しております。しかし、この本には単なる感情論や先入観にとらわれずに、否、むしろ、よりよい中国にしていこうと少なからず思って中国で生活している日本人達が、個々のデーターとそれから推測でき指標を冷静に分析して導き出した回答があるように思います。1995年以降、中国進出企業のトラブルが増えているようですが、この本は、その中国の現状を余すところなく書かれている必読の一冊と思います。

 日本国政府の、個々の企業にしても、また、日本の世論にしても、いままでの援助や投資の見直しをする時期に来ており、どのような援助や投資がお互いにメリットがあり、リスクが少なく、契約が守れるのか、時間を掛けて慎重に相手の対応を見ながら考えた方が好ましいようになってきました。