<ジュン、用意しとけ!!>

 予定の9:40を過ぎた頃、藤井チーム監督から「ジュン、用意しとけ」と声が掛かっ た。担々とレーススーツを身に着け、グローブをはめ、最後にヘルメットをかぶる。 さきほどのポロシャツに短パン姿から、「仕事人」に早がわりだ。そして、ヘルメッ トから目元しか見えなくなった彼の表情はやはり「仕事人」の目をしていた。ディレ クターチェアーに座り、腕組みをし、ピット内のモニターでレース状況を見る。この 時点でモニターからゼッケン778番のブラックバードの着順は消えていた(15位以下) が、ブラックバードと小西選手のモーレツな追い上げが既に始まっていた。
いよいよ前田選手にライダーチェンジ。耐久レースの見せ場だ。ライダーが稼い できたトップとの差をピット作業で遅れてロスすることは許されない。しかも、レギ ュレーション上、エンジンは一度ストップしなければならないというリスクをかかえ ている。思った以上にゆっくりした足取りでブラックバードに前田選手が近づく。小 西選手が監督にマシン状態、コース状況をシールドしたまま報告。そしてライダーチ ェンジ。セルスイッチを押すが、なんとっ!エンスト。しかし素早くもう一度押し、 何事も無かったように、意外なほど静かに前田選手とブラックバードはピットを離れ て行った。

 ここからの前田選手とブラックバードの追い上げは、他のマシンとの格の違いを感 じる程だった。短すぎる東コースでありあまるパワーをもてあまし気味のブラックバ ードだったが、次々と前車を追い抜いていく。そして、持ち時間を終え、再び小西選 手にライダーチェンジをするまで、彼は何とブラックバードを2位まで引き上げてい った。 ピット内に戻る彼をスタッフ関係者全てが笑顔で出迎え、握手。まだ、レースも終え ていないのにだ。ピットからヒョッコリ、パドックに顔を出した彼は、「まぁ、こん なもんですワ。」上気した顔の目元が優しく笑っていた。


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