ネットワーク社会学

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター所長
公文俊平



というわけで、今回は当時の増田氏の鋭い眼力の一端を、この座談会記録から拾って 紹介してみよう。(ちなみに、多分このころだったと思うが、私は増田氏に、「こういう研究をおやりになっていらっしゃるからには、コンピューターもさぞかし使いこなしていらっしゃるのでしょうね」と尋ねてみたことがある。そうしたら増田氏はにやっと笑われて「いや、さわったことも見たこともありません」と答えられた。もちろん、まだパソコンなどはなかった、メーンフレーム全盛時代の話である。増田氏は、実際にコンピューターにさわったことがなかったからこそ、よけいに熱い思い入れをコンピューターに対して持ち、未来の情報社会への期待をコンピューターに託すことができたのであろう。

 とりわけ興味深いのは、増田氏が「情報経済学」を書く仕事にとりかかったところ、結局その中身は通常の経済学の範囲を超えてしまったという点である。氏は座談会の中で、それを情報の価値には三つの側面があるという形で説明している。いわく、 「 1つの側面は、物財を生産する中間財としての役割で、オートメーションと か、いわゆる工業社会の物的な生産力をもっとシフトしていくものとして作用す るだろう。
それから次に、システム財というか、情報がいろいろのシステムの生 産、この場合の生産というのは何も物に限らないわけで、その場合のシステムと いうのは、これは広く解釈すればインスティテューション、制度にもなるわけで す。たとえば政治でいえば直接参加の民主主義とか、社会的なものとしていえば 公害防止システムとか、ということです。
そうするとこれは、政治学の分野に非 常に大きなインパクトを与えるし、あるいは社会的な慣行とかビヘイビアという ものに大きな影響を与える。そして最後は、ロストウ的にいえば、情報というも のが個人のパーソナルな財として使われるようになれば、それは手段財として使 われる。手段財といっているのは、つまり目的達成のための手段として情報が使 われるということです。これはベル的にいえば、まさに文化的側面、つまり自己 実現だと思うのです。そういうふうに考えると、この情報の生産力がコンピュー タと通信技術によって飛躍的に高まり、その3つの側面で経済価値が増大する。」


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